Native Americanの大地へ


3/7 モニュメントバレー


■ミステリーバレー■

明け方少し寒くて目が覚めた。外は雪が積もっている。まだ真っ暗な中を怖々トイレに行く。うっすらとトイレの赤い小屋が見えるが100mほど離れている。トイレに扉はない。風はなかった。静かに降る雪を眺めながら座っていると妙に落ち着いた気分になった。他の2人も起きていたので薪とコークスをくべ、もう少し眠りについた。

暖かさにぐっすり眠りこけて、目が覚めたときにはすっかり明るくなっていた。やはり空は雪雲に覆われている。しかし、不思議なことに地面はすでに赤い土が露出していた。もう少し薪を追加してお茶が沸いた頃、レイさんが朝食を持ってやってきた。朝食はシリアルにドーナツ、ミルクにオレンジジュースだった。前もって頼めば別料金でナバホティーとコーンブレッドなどの伝統的な朝食も食べることができる。

8時を少しまわった頃、レイさんが迎えに来た。車高の高い4WDだ。まずはミステリーバレーにむかう。モニュメントバレーの方に163号線を進む。

なぜかまったく道路に雪がない。わたしはずーっと長い間疑問に思っていたことを尋ねてみた。なぜあんなに雪が積もっていたのに道路には全然積もらないのか。それに雪が溶けた形跡もなく、地面が乾いているのはどうしてなのか。明け方見たときにはかなり積もっていたのに目が覚めたときに
は地面が露出していたのはなぜか。レイさんの解答は明解だった。「地面が暖かいから」それに風も強いのでアスファルトの上に雪が溜まる前に吹き飛ばされてしまうらしい。

車は163号線をそれてボコボコの地面をぐいぐいと進む。ここはモニュメントバレーの裏側のバレーと言うべきか。アナサジの遺跡を所々見ながら進む予定だ。あたりはまだ雪に覆われている。遠くの方に灰色のモニュメントバレーが見える。ナバホの人々の家がポツンポツンとある。車は谷間を縦横無尽に走り、遺跡や変わった岩を見られる場所に停まっては降りて歩く。

■レイさん■

車の中ではナバホのラジオ放送が流れている。アパッチのダンスソングやナバホのポップスが聞こえてくるとレイさんが説明してくれる。

なんだか雪雲と雪のせいか、まわりの岩々が大海の荒波のように見えた。岩が薄い皮を一枚ずつ剥がすように浸食されているので、とても不思議な形をしているのだ。波のようだとレイさんに言うと、不思議な顔をするので日本が海に囲まれていること、昔は鯨をたくさん食べていたことや(レイさんに質問された)魚を多く食べることなど説明すると興味深く聞いてくれていた。

車を降りて歩いてみると、灌木の下に灰色のウサギがうずくまっていた。近づいても寒いのか怖いのか警戒してるのか動こうとしない。ここらには鹿や牛、馬、リス、山羊、羊などの動物たちの糞がたくさん見られる。レイさんにここらにコヨーテとマウンテンライオンはいるのかと聞いてみると、コヨーテはたくさんいるらしい。マウンテンライオンは5頭ばかりいるそうだ。数が少ないのは縄張りが広いせいなのだろうか。その話を聞いて我々は少しドキドキさせられた。なんせホーガンのトイレは荒野の真ん中、扉もないのだから(笑)

アナサジの住居跡を次々案内してもらう。なかなか保存がいい。岩壁の中程の窪みに、穴をふさぐように岩を砕いたレンガを土と藁を錬ったもので積み上げて壁にしてある。小さな入口があり、天井の方に煙を出すためか少し隙間が空いてある。そこを中心に天井が黒く煤けている。火を燃やした跡なのだろう。その岩壁の下部の地面にはその頃の壺などの欠片が散乱している。

いつ頃のものなのか訊ねると、約2000年前のものらしい。随分小さい建物なので聞いてみるとアナサジ族は1m程の小さな人々だったらしい。そういえばアナサジの子孫であるホピの女の人は小柄な人が多かったなあ・・・バカピのアニーもワルピのダイナさんも工芸品を売ってたおばあちゃんも。

彼らが彫った壁画も所々にある。ゴート(山羊)の絵や人間、手形や足形、渦巻き模様や、
鳥の絵だ。それらのどれもが彼らの生活に深く関わったものたちだろう。そしてきっとこのあたりはほとんどその頃のままに違いない。少しずつ確実に岩の形は変わっているんだろうけれど。

私たちはナバホ語と日本語の挨拶を教えあったりしながら3時間半ほどミステリーバレーの中をグルグルと走り回った。どこも岩ばかりなのだが全然見飽きない。いきなり岩の天井に大きな穴が開いて空を覗いたり、水無川を走ったり、これぞオフロード!(階段状の岩の上を走ったりするのだ)という走りを楽しませてもらった。

彼は無口だがカメラをむければポーズをとってくれ、慣れてきたのか私の下手な英語の質問にも丁寧に答えてくれるし、私たちのことも興味を持って聞いてくれる。なかなかおもしろい人なのだ。お昼前にはすっかり空も晴れ渡り、あたりの雪は嘘のように無くなっている。

昼食を食べにホーガンまで戻り、1時間ほど休憩を取った。お昼はレタスとハムのサンドイッチだ。(この一日ツアーには昼食も含まれている)自分で好きなだけレタスをちぎり(丸ごとやってきた(笑))ハムと一緒に挟んで食べる。ハムの塩気が私にはちょうど良い。

■スウェットロッジ■

午後はホーガンのすぐ後ろにあるメサの麓近くのスウェットロッジを見学させてもらう。外に汗を洗い流すためのポリ製の浴槽があり、スウェットロッジは木を三角錐に立て、上から土で覆われている。入口は四角く開けられていて、ラグが2・3枚扉として掛けられている。最初の日泊まったホーガンの煙突のない形のやつだ。高さは中に人が座って頭がぶつからない程度。入って右側には焼いた石を置くスペースがある。

以前テレビで見た映像で、焼けた石に水を掛けていたので聞いてみると、ナバホでは水は掛けないらしい。スー族は掛けるらしい。部族によって少しやり方が違うようだ。このあたりの岩は欠けやすいので、焼くと破片が飛び散って危険なので70マイルも先のキャニオンから運んでくるらしい。石を焼くための木もスウェットロッジを組むための木も、離れた場所から運んでくる。

スウェットロッジは3人がかりで1日で作り上げられたそうだ。1日で作り上げなければならないそうなのだが、どうしてなのかは語学力不足で正確に聞くことはできなかった。どうも儀式的な意味があるらしい。スウェットロッジ自体も形はサウナのようなものだが、セレモニーの際に用いられるようだ。禊ぎ(みそぎ)のようなものだろうか。回数も4回と決まっているらしい。スウェットロッジの中に入って外に出て、を4回繰り返さなければならないと決まっているのだ。このB&Bでは事前に予約して料金を払えば、スウェットロッジの体験もさせてくれる。


■ナロウキャニオン■

その後、私たちはホーガンのあるメサの裏手のキャニオンに行く。ここにもたくさんのアナサジの遺跡があるが、ここで楽しいのはキャニオンの奥、車を置いて小川を渡り、遺跡を見た後、河を少し遡って小さな滝を見に行く軽いトレッキングだ。キャニオンは春の穏やかな表情を見せてくれる。川面が日射しを反射してキラキラ光っている。谷を渡る風は、少し汗ばんだ私たちの額を軽くなでていく。

このキャニオンには畑が多い。トウモロコシ、ピーチ、プラム、葡萄、西瓜、ウリ等色々な作物が穫れるそうだ。ナバホ居留区はニューメキシコ・アリゾナ・ユタと3つの州にまたがっている。モニュメントバレーはアリゾナとユタ州の州境にあるのだが、ここの畑にはユタ州のナバホ族のファミリーが耕しにきているらしい。特にトウモロコシは夏の二ヶ月で種まきをし、翌年の夏に収穫をするそうで、その二ヶ月は家族だけではなく親戚なども集まって大勢で作業をするのだそうだ。ここにはレイさんの家族の畑もある。彼はその畑を「グランマザーの畑」と呼ぶ。ネイティブの社会は母系社会と聞いたことがあるけれどその通りなのだと実感。レイさんのお母さん、収入源のラグを織ったり私たちの食事を作ったり足が悪いのに忙しく働いているけど、亭主関白ってわけではなくてお父さんに色々指図したりしてたもんなあ・・・納得(笑)

■アナサジの遺跡■

河は谷の入口では土の色をして赤いが、上流は綺麗に澄んでいる。つい最近入り口付近の畑に水を引くため、10人がかりでシャベルだけで水路を造ったそうだ。

しかし乾燥した大地に見えるので、この小川の水だけで作物ができるのか聞いてみると、冬は結構雪が降るのと夏にはかなり激しい雨が時折降るので、問題はないのだと彼は言う。

それでも水は充分と言うわけではないのだろうが、(スウェットロッジの時に使う水は買いに行かなければならない)ここは豊かで美しく、彼らが感謝を捧げている大地なのだと理解することができた。

私たちは1日ツアーを満足のうちに終えたあと、少し休憩を取ってからモニュメントバレーを見に行った。もう日が少し西に傾いていたが、天気もいいし夕焼けも綺麗だろう。すでにビジターセンターも閉まり中には入れなかったが、外から充分その美しさを堪能することができた。

あまりに綺麗でゆっくりしたので、帰りは真っ暗になってしまった。あの未舗装道路を怖々帰る。車のヘッドライトで照らす地面以外何も見えず、かなり不安だった。ここで道路の穴にタイヤを落としたら、お腹を擦って車が壊れたら・・・ゆっくり走ってホーガンの入口を目を凝らして探しながら走る。ああー入口に置いてあった石だ。(よく見つけたなあと今考えても感心する(笑))なんとか無事到着だ。ホーガンではレイさんとお父さんが私たちの帰りを待っていてくれた。随分心配をかけてしまったようだ。

今日は大きいホーガンで眠る。昨日織物の実演を見せてもらった所だ。至極快適だ。夜空は怖いぐらいの満天の星空だが、今日は風が強く砂嵐のようだ。ホーガンの中にいても風が煙突を通る音がザーッと聞こえてくる。本当にこのあたりの気候、自然は千変万化するようだ。しかし、ホーガンの中はポカポカと暖かく私たちは今日の疲れもあってぐっすりと眠りについたのだった。


■夕陽のモニュメントバレー■

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